ガンガンpixivにて連載されている豊田悠による人気BLコミック『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(スクウェア・エニックス)の第6巻が12月22日に発売された。ファンの間で「チェリまほ」と呼ばれ愛されている同作は、童貞のまま30歳を迎えたことで「触れた人の心が読める魔法」を手に入れた冴えないサラリーマンの安達清が、社内一のイケメンで仕事もできる完璧な同僚・黒沢優一が自分に恋心を寄せていることに気づくところから始まるラブコメディだ。
赤楚衛二と町田啓太により実写化されたドラマ版もクリスマスイブの深夜1時30分より放送される第12話をもってついに完結する。今回は原作者の豊田先生と、担当編集の伊藤さんと河合さんにドラマの魅力や漫画制作の裏側を伺った。(苫とりこ)【インタビューの最後にサイン本プレゼント企画あり】
何かが変わるかもしれないと思わせてくれる魔法のようなドラマ
――毎話放送される度に大きな話題となっているドラマ版チェリまほですが、実写化が決まった時はどんな気持ちでしたか?
豊田:3巻が発売された2019年11月頃に実写化のお話を最初にいただいたんですが、元々ドラマが大好きだったので、自分の漫画がドラマ化されるかもと聞いた時はすごく嬉しかったです。ただBL漫画の実写化は前例がすごく少ないこともあり、楽しみ8割、不安2割くらいでしたね。
――キャストも決まった状態だったのでしょうか。
豊田:正式にドラマ化されると決まったのが今年3月で、その時点では安達役の赤楚さんのみ出演が決定していました。最初に赤楚さんの写真や動画を見せていただいた時には、こんな爽やかなイケメンが安達を演じてくださるのか……!と嬉しい反面、かっこよすぎて果たして安達になれるのかという不安も。
伊藤:どちらかといえば猫背で暗いイメージのある安達に対して、赤楚さんはとても好感度の高い方。なので始めはイメージできなかったんですが、実際に動いているのを見て「安達だ!」ってなりましたよね。
豊田:爽やかな赤楚さんは冴えない安達の間に本来ならとても距離がある方だと思うのですが、外見だけではなく姿勢や目つきなど、全身で安達を表現してくださって感動しました。安達は臆病ながら一歩踏み出すシーンが多いのですが、それを大袈裟ではなく、でも応援せずにはいられない瑞々しさと煌めきをもって毎回違う表情を見せてくれる。そんな赤楚さん演じる安達だからこそ、みんな見守りたくなるのではないかなと。
――黒沢に出会って、少しずつ変化していく安達の表情も印象的です。
豊田:2人が付き合い出してから、黒沢の愛情を受けて自信を得た安達が日に日に可愛くかっこよくなっていくじゃないですか。言葉や理屈では説明できない部分で惹かれてやまない愛らしさが暴力的なほど赤楚さん演じる安達から溢れ、その吸引力で黒沢が安達のことをより好きになってしまう説得力をお芝居で生み出せることが本当に素晴らしいなと思いました。
――そんな安達に恋する町田さん演じる黒沢の魅力は?
豊田:町田さんの人に対する誠実さや、どんなジャンルの作品に対しても敬意を持ち、なおかつ楽しんで挑む真摯さが黒沢と共通してるなと思いました。また別の作品で町田さんを拝見した時にコメディに振り切った時の思いきりのよさと、それでもブレない品の良さが唯一無二の存在だなと思ったことがあり、黒沢役に決まった時から絶対素敵だろうなと想像していたのですが、100倍くらい期待を超えてきてくださって。毎回オンエアを見るたびに戦慄しています。
――本当に少女漫画から出てきた王子様のような存在ですよね。
豊田:もちろんコミカルな演技も最高なんですが、なにより黒沢の人間らしい葛藤や切なさが町田さんの視線や指先の動きの一つひとつから伝わってくる。でもそれを見せまいとする様が本当にいじましくて、観てた人全員が「幸せになってくれ……!」ってなったと思います。今まで黒沢優一のことは作者である自分が一番よく理解してると思っていましたが、町田さんはそれ以上です。
――2人とはまた別に展開される浅香航大さん演じる柘植と、ゆうたろうさん演じる湊の恋愛模様も見逃せません。
豊田:特に湊と出会って恋に落ちてから、大人としての良識や冷静さを取り繕えないほど必死になっている柘植が可愛い。なおかつ、そのなりふり構わなさが泥臭くてかっこいいという矛盾が浅香さん演じる柘植の魅力だなと思います。それに柘植は小説家なので話し方が文語体で口に出すと少し違和感のあるセリフが多いのですが、浅香さんが演じることで普段人とあまり話さず文章ばかり書いているという背景まで見えてくる。個人的には柘植の運動し慣れていない人特有の走り方や荷物を置く時の直線的な動きが好きで、柘植はきっとこういう動きするだろうなって納得しっぱなしでした。
――配達員の湊に会うために荷物をいっぱい頼むシーンもキュンとしました。
豊田:ちょっとやばい量のダンボールがありましたよね(笑)。猫のグッズを頼んでいるという設定だから、小道具さんが猫ショップの箱まで作ってくださったんだと思います。そういう細かい部分にまで注目してみてください!
――では、湊役のゆうたろうさんはいかがでしたか?
豊田:湊は4人の中で原作から一番設定が変わったこともあり、ゆうたろうさんは本当に大変だったと思いますが、ドラマオリジナルの湊はつっけんどんに見せかけて本当は思いやりがあり、一方で心を読まないと何を考えてるのかわからないミステリアスな雰囲気と色気で無自覚に柘植を振り回すところが魅力的です。
そんな湊が柘植を好きになったきっかけは、おそらく8話で柘植がダンサーを目指している湊に「俺は絶対にお前をバカにしない!」と断言したシーンだと思うんですが、その瞬間ゆうたろうさんがふんわりと綻ぶように微笑む表情がとても印象的でした。安達と黒沢のようにゆっくりと進む恋もあれば、湊のように青天の霹靂で意外な相手に心打たれるときもある。このドラマで色んな恋の形を見せていただけたなと思います。
――豊田先生は原作者であり、なおかついちファンとして一人ひとりの登場人物に注目して作品を楽しんでいらっしゃるんですね。そんなドラマ版チェリまほの魅力はどこにあるのでしょうか?
豊田:映画のように美しい画面や、優しくて多様性のある世界観。魅力的な要素は書ききれないほどあるのですが、個人的にはやはり黒沢と安達の恋愛をじれったいほど丁寧に、そして誠実に描いているのがこのドラマの良さだと思います。魔法が使えるというファンタジーな設定はあれ、2人の男性が互いを好きになり、付き合って、どう変わっていくかというシンプルなチェリまほの世界観を、監督をはじめ役者さんやスタッフの皆さんが丁寧にドラマへ落とし込んでくださり、こんな贅沢なことはないですよね。純粋に相手を思って行動したり、いつもより少し勇気を持って踏み出したら、何かが変わるかもしれないと思わせてくれる魔法のようなドラマです。
――登場人物の心情を丁寧に描いているところはもちろん、黒沢の後輩である六角くん(草川拓弥)が飲み会の場で王様ゲームを勧める上司に「時代錯誤」と言ったり、安達の同僚・藤崎さん(佐藤玲)が親から結婚を急かされて悩んだりと時代背景を反映している部分もリアルだなと思いました。
豊田:多分ですがドラマ制作チームの中にパワハラや世間一般のかくあらねばという風潮に対する憤りのようなものがあり、その思いを六角くんや藤崎さんの台詞に込めているのではないかと思いました。本当に色んな面に気を配ってくださっているなと思いました。
――豊田先生自身が特に印象に残っているシーンはどこですか?
豊田:やっぱり7話ですね。黒沢の過去編と安達への告白をくっ付けた構成で盛り上げてくださったこともありますが、黒沢が安達を好きになったベンチのシーンも告白のシーンも最初から最後まで、こんなに美しい恋愛があるのかと感動しました。
――SNSでは女性を中心にチェリまほの話題で持ちきりですが、原作者である豊田先生は本作がここまでブームになった理由は何だと思われますか?
豊田:私は評論家でも分析家でもないので詳しいことはわからないですが、先に答えた通りスタッフ・キャストのみなさんが丁寧にドラマを作ってくださったおかげで、すベての登場人物がまるで現実社会のどこかで一生懸命生きているように感じられるからこそ、観てる方も安達と黒沢の恋を応援したくなったのではないでしょうか。
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