【シンガポール=中野貴司】マレーシアのアブドラ国王は25日、ムヒディン首相が要請していた非常事態宣言を発令しない方針を決めた。極めて異例の措置である非常事態宣言に頼らなくても、新型コロナウイルス対策などを実行できると判断した。与野党の政治家には政争を即座にやめるよう求めた。
王室が25日に発表した声明の中で、国王は「現政権がムヒディン首相の下、引き続き新型コロナを抑制する政策や行動を遂行できると強く信じている」と表明。その上で「現時点でマレーシア全土あるいは一部地域に、非常事態宣言を発令する必要性はない」として、ムヒディン氏の要請を却下した。さらに「国会議員が現政権の安定を乱す無責任な行動を続ける必要はない」と訴え、政治の混乱を早期に収束するよう求めた。
ムヒディン氏が非常事態宣言の発令を要請したのは、与野党の国会の議席数が拮抗し、予算案などの重要法案の成立が予断を許さない状況にあるためだった。野党連合を率いるアンワル元副首相は9月下旬以降、「国会議員の過半数の支持を確保した」と主張し、政権交代への圧力を強めていた。
ムヒディン氏は新型コロナへの対応や国民生活の安定を名目に非常事態宣言を出し、国会の審議を経なくても2021年予算案を成立できるよう狙っていたもようだ。ムヒディン氏は23日に国王と面会し、非常事態宣言の発令を要請した。
これに対し、野党は強く反発した。アンワル氏は「ムヒディン政権は非民主主義的な手段に頼って権力を維持しようとしており、独裁や権威主義に陥りつつある」と批判。マハティール前首相も「非常事態宣言を正当化できる暴動や暴力、法秩序の崩壊は起きていない」と指摘。「実際に発令されれば投資家の政権への信認は失われ、市場は完全に崩壊する」と懸念を示していた。
国王がムヒディン氏の要請を受け入れなかったことで、11月に再開される連邦議会下院で予算案が通常通り審議される見通しだ。国王はコロナ下でも権力闘争を続ける政治家に不快感をにじませており、自らが首相の有資格者だとするアンワル氏の主張を受け入れる可能性も低下したとみられる。
マレーシア憲法は、国王が安全保障や経済生活、公共の秩序が脅かされる深刻な緊急事態を認めた場合、非常事態宣言を発令できると定める。地元紙によると、全土への非常事態宣言の発令は1969年以来、実施されていない。
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