日本は国際社会から一体どのようにみられ、そして、日本人の意識は国際社会と比べてどのような特徴があるのか。
【画像】日本の影響を「好ましくない」と多くの人が答えたのはこの2カ国
アジア各国の国民感情を比較した園田茂人『アジアの国民感情』(中公新書)から、データが暴いた日本の「ホントの国際評価」をみていこう。
なお、使用されているアジア学生調査は、2008年(第1波)、2013〜2014年(第2波)、2018〜2019年(第3波)と3回にわたってアジア各国(日本、韓国、中国、台湾、香港、ベトナム、フィリピン、タイ、マレーシア、シンガポール、インドネシアなどが参加)の大学生を対象に行われた調査である。
データが暴いた日本の「ホントの国際評価」とは ©AFLO/©文藝春秋
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「日本の魅力」どう測る?
そもそも日本の魅力は、どうすれば測ることができるのでしょうか。「日本に行きたい」「日本が提供する財やサービス、知識などを吸収したい」といった欲望を調べればよいのでしょうが、問題はこれをどうやって指標化するかです。
この章では、海外の日本に対する評価と、日系企業への就職希望の有無、日本への留学希望の有無の3つを、日本の魅力を測定する尺度とします。
「日本の影響」は好ましい?
6-1は、自国に対する日本の影響を、国・地域ごとに時系列で示したものです。
韓国と中国は、日本に厳しい評価をしているものの、それ以外の地域では肯定的な回答が多く見られます。また「わからない」という回答は、どの地域でも7%以下です。ロシアへの評価フィリピンへの評価とは違い、日本の影響が理解され、評価されていることがわかります。
アジア学生調査第3波調査の対象となった10の国・地域で、対外認識で日本が最上位になかったのは韓国と中国、香港だけです。アジア域内で日本の国としての魅力は、相当に高いと評価してよいでしょう。
日本の企業に国際的な「魅力」はあるのか?
次に、日本の企業の魅力はどうか。
総じて東アジアでは自国の企業で働くことを希望する者が多く、しかもその割合は、この5年間で増えています。他方で、ベトナムやタイのように、自国の企業での就職を希望しない者が多い国もあります。こうした国で日系企業を就職先として希望する者が一定数います。東南アジアでは韓国系企業での就職を希望する者が散見されましたが、東アジアでは韓国を除きほとんどいません。
親日的な台湾で、日系企業で就職したいと思っている学生がさほど多くなく、アメリカ系やヨーロッパ系の企業での就職を希望する学生の方が多い点にも注意が必要です。国レベルか、企業レベルかによって、評価が変わることを示す典型的なケースだからです。
中国では、経済成長とともに自国企業のプレゼンスが大きくなり、外資系企業への就職希望者が、この10年の間に急速に減っています。
「留学先・日本」はアリ? ナシ?
6-3では、日本への留学関心をまとめた結果を示しています。すでに述べたように、アジア域内では英米への関心が突出して高く、その次にカナダ、オーストラリア、日本はシンガポールとともに第3のグループを形成しています。ただし地域によって日本への関心が若干異なります。
対日感情がよくない韓国や中国では、日本への留学に「大変関心がある」「まあ関心がある」とする回答は、全体の半数近くにとどまります。他方で、日本語の能力はさほど高くないものの、日本の影響を高く評価するフィリピンやマレーシアでは、日本への留学に関心を示す学生が9割近くいます。
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アジアから高い評価を受けていることが明らかになった日本。では、日本はそんなアジアをどうみているのだろうか。そして、その「日本のアジア観」は、国際社会と比べてどのような特徴があるのだろうか。
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国際水準とズレてる? 「日本のアジア観」
最後に、日本のアジアイメージを確認することにしましょう。
対外認識をめぐる日本の特徴を示すため、6-12で日本のデータとアジア全体のデータを対比させています。第2波調査と第3波調査では、中国に対する評価が変わっていますが、それ以外では似た傾向にあります。
日本は、アジアの他の地域に比べて韓国と北朝鮮を低く評価しがちです。それに対して東南アジア諸国には、総じて高い評価をしています。オーストラリア、インド、アメリカについては他の地域より高く、ロシアについては低くなっています。こうした特徴は、第2波調査、第3波調査ともに共通しています。ロシアと北朝鮮の評価が低いのは、日本で冷戦体制メンタリティーが比較的強く残っているからでしょう。
冷戦体制メンタリティーが残っているのは、アジアの変化に日本人の認識が対応しきれていないからではないか。アジアイメージがアップデートされていないからではないか。筆者がそう感じるのには理由があります。
アップデートされていない日本の「アジア観」
アジア学生調査の第1波調査と第3波調査で、アジアのイメージを聞いています。そこで用いられた6つの対照的な形容詞群のどちらに近い回答をしたのかを表したグラフが6-13です。
/を挟んで左側の形容詞に近い回答をすればするほど低いスコアを、右側の形容詞に近い回答をするほど高いスコアを示しており、1点から7点でスコア化しています。中央値が4点ですから、4点よりも値が高いか低いかに注意して、グラフを見てください。
「安全/危険」という軸では変化が見られますが、それ以外では、この10年間、日本のスコアはあまり大きく変わっていません。日本とアジア全体で大きく違いが見られるのは、「汚い/きれい」「停滞した/発展した」「若い/古い」の3つの形容詞群です。
筆者が特に注目したいのは「汚い/きれい」の軸です。「若い/古い」が、肯定・否定のどちらに近いか判別しがたいのに対して、「汚い」が悪いイメージ、「きれい」がよいイメージであることは明らかですが、アジア全体が4.2強あるのに、日本は3.5弱と4を下回っています。この両者の間に0.75ポイントの差があり、この差はこの10年間変わっていません。
また「停滞した/発展した」という軸でも、似た特徴が見られます。筆者はそこに、日本におけるアジアイメージの「停滞」を感じ取っています。
なぜ日本はアジアから評価されているのか
アジア諸国の多くは日本に好意的な評価をしてくれています。アジア学生調査の対象となった多くの国・地域では、日本の影響を最も高く評価し、英米豪ほどではないにせよ、多くの学生が日本への留学を希望しています。日本語能力は高くないものの、日本語の持つ有用性は広く理解され、日本の大衆文化受容も進んでいます。
(中略)
社会的距離という点でも、日本人は「特別扱い」されています。対日感情がよくない中国でも「自国から出て行ってほしい」とする回答は8.8%、韓国でも3.3%と、さほど多くありません。日本を必ずしも好意的に見ていない中国では、大衆文化受容と日本語学習が、日本イメージを向上することに一役買っています。
アジア、とりわけ東南アジアでの評価の高さは、意外にも思えます。第二次世界大戦で日本の侵略対象となった東南アジア諸国では、その歴史的経緯から反日感情が強いとされてきたからです。
しかし戦後70年以上が経ち、先人たちが地道な努力を積み重ねてきた結果、こうした結果が得られるに至っています。日本にとって、この貴重な財産を今後どのように活用し、アジアに、そして世界のためにどのように利用することができるか。私たちの知恵が問われています。
(園田 茂人)
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