CDC(アメリカ疾病予防管理センター)(※1)も、日本産婦人科学会も、妊婦さんはインフルエンザワクチンの優先順位が高いグループだとしています。というのも、妊婦さんはインフルエンザに罹ると悪化しやすく、罹った場合は子どもへの影響が懸念されるからです(※2)。
(※1)Flu Vaccine Safety and Pregnancy Questions & Answers
(※2)Pediatrics 2014; 133:e674-e88.
私は小児科医ですが、妊娠中のお母さんからインフルエンザワクチンの必要性や安全性に関して尋ねられることもよくあります。
そこで今回は、外来でよく聞かれる内容を中心に、最近の研究結果をご紹介しましょう。
妊婦さんへのインフルエンザワクチンは有効
妊婦さんに限らず、インフルエンザワクチンの効果は明らかです。それこそ、6ヶ月以上の乳児でも有効性ははっきりしています(※3)。
もちろん、妊婦さんでもインフルエンザワクチンは有効です。
たとえば、妊婦さんへのインフルエンザワクチンは、接種しない場合に比較してインフルエンザに罹るリスクを半分以下にしたという研究結果があります(※4)。
(※3)1歳未満へのインフルエンザワクチン、効果は? 医師でも意見が分かれる理由
(※4)Maternal and Child Health Journal 2020; 24:229-40.
とはいえ、妊婦さんにとってさらに心配なのは、おなかの中の赤ちゃんに対してかもしれませんね。
妊娠中のインフルエンザワクチンは、おなかの中の赤ちゃんにも安全と考えられている
3600人以上の妊婦さんを、インフルエンザ接種するグループとプラセボ(偽薬)を接種するグループに分けて、有害事象(ワクチンと関係あるなしに関わらず起こった、好ましくないまたは意図しないあらゆる医療上の事柄)に差があるかを検討した研究があります(※5)。
すると、流産率、死産率、先天異常の率などには差がなく、むしろインフルエンザワクチンを接種した妊婦さんから生まれた子どもが低出生体重児になる率が15%減少したそうです。
(※5)Lancet Infect Dis 2017; 17:981-9.
妊娠中、いつでもインフルエンザワクチンは実施できる
CDCは、妊娠初期から妊娠後期までインフルエンザワクチンの接種が可能としていますので、いつでも接種可能です(※1)。
かかりつけ医の先生の意見で接種時期を考えていただければ良いでしょう。
妊娠中のインフルエンザワクチンは、生まれてくる赤ちゃんがインフルエンザに罹りにくくさせる
生後6ヶ月以上であれば、本人にインフルエンザワクチンが接種できます。
しかし生後6ヶ月までは、予防接種をしたくてもできませんね。その心配な時期を、妊婦さんに対するインフルエンザワクチンでカバーできます。
例えば、妊娠中のインフルエンザワクチン接種の効果をみた研究2本(5742人)をまとめた検討があります。
すると、妊娠中のインフルエンザワクチンは、生まれてきた赤ちゃんのインフルエンザに罹るリスクを34%低下させたそうです(※6)。
さらに、別のこんな研究もあります。
妊娠中のインフルエンザワクチン接種が、その後生まれてきた子どもが5歳になるまでの健康に影響していないかを検討した研究を集めて検討した報告です。すると、妊娠中にインフルエンザワクチンを接種すると、生まれてくる子どもの風邪(上気道感染)、消化管の感染などのリスクを減らすことを示しました(※7)。
(※6)Vaccine 2020; 38:1601-13.
(※7)Pediatrics 2020; 146.
妊婦さんへのインフルエンザワクチンは、生まれてくる赤ちゃんへのギフトになると言えるかもしれませんね。
妊婦さんへのインフルエンザワクチン接種に関するまとめ
さて、色々出てきましたのでまとめてみましょう。
妊婦さんへのインフルエンザワクチンは、
1)妊婦さん自身がインフルエンザに罹るリスクを減らす
2)これから生まれてくるお子さんのインフルエンザへ罹るリスクを減らす
3)特に悪い結果を増やすことはない
ということですね。
なお、妊娠中のワクチン接種で生まれてくる赤ちゃんが罹りにくくなる感染症があります。
百日咳です。
妊娠中に百日咳に対するワクチンが含まれている三種混合ワクチンを接種すると、乳児期に罹るとリスクの高い百日咳にかかる可能性を下げることがわかっています。
(※9)子育て世代のワクチンで防げる病気
インフルエンザワクチンとの同時接種も一般的に可能ですので、かかりつけ医に相談してみることをおすすめいたします。
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